「抜歯矯正はやめたほうがいい」は本当?後悔しないために知るべきリスクと真実
歯列矯正を検討している患者さまの中には、「矯正では歯を抜くことがあると聞いて不安」「抜歯矯正はやめたほうがいいという話を見たけれど、本当なの?」と疑問や不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。実際、インターネットやSNSでは「抜歯矯正で後悔した」「顔つきが変わった」といった声が見られることもあり、不安を強めてしまう要因になっています。
しかし、抜歯矯正が必ずしも悪い治療というわけではありません。本コラムでは、抜歯矯正が「やめたほうがいい」と言われる理由を整理しつつ、本当に注意すべきポイントや、矯正治療で後悔しないために大切な考え方について、歯科医師の立場からわかりやすく解説します。
▼抜歯矯正はやめたほうがいいと言われる理由
抜歯矯正はやめたほうがいいと言われる理由としては、主に以下の3つが挙げられます。
1.健康な歯を抜くことへの心理的抵抗が大きい
抜歯矯正に対して否定的な印象を持たれやすい最大の理由は、「虫歯でもない健康な歯を抜く」という点にあります。歯は一度失うと元には戻らないため、「本当に抜く必要があるのか」「将来後悔しないか」と不安になるのは自然なことです。とくに子供やお子さまの矯正の場合、親御さんが強い抵抗を感じるケースも少なくありません。ただし、矯正治療における抜歯は、歯を並べるための“スペース確保”という明確な目的があり、無計画に行われるものではありません。
2.口元が下がる・顔つきが変わると聞くことがある
「抜歯矯正をすると口元が引っ込みすぎる」「老けて見えるようになった」という話を耳にして、不安を感じる方も多いでしょう。これは、歯を後方に下げすぎた場合に起こり得る変化です。ただし、これは抜歯そのものが原因というより、歯の動かし方や治療計画が適切でなかった場合に生じやすい問題です。骨の中では、歯が動く際に“骨を壊す働きをする細胞”と“新しい骨を作る細胞”がバランスよく働きます。この仕組みを考慮せずに歯を大きく動かすと、見た目の違和感につながることがあります。
3.噛み合わせや歯茎への影響を心配する声がある
抜歯矯正に対して、「噛み合わせが悪くなるのでは」「歯茎が下がるのでは」といった不安の声もあります。確かに、噛み合わせの診断が不十分なまま治療を進めると、見た目は整っても、奥歯でしっかり噛めない状態になる可能性があります。また、歯を支える骨や歯茎の状態を無視して歯を動かすと、歯茎に負担がかかることもあります。ただし、これも抜歯矯正そのものの問題ではなく、診断や管理が不十分だったケースで起こりやすいといえます。
◎抜歯矯正=失敗という誤解が広がっている
インターネット上では、個人の体験談が強調されやすく、「抜歯矯正=やめたほうがいい治療」という印象が広がりがちです。しかし実際には、顎の大きさと歯のサイズのバランスが合っていない場合や、前歯の突出が強い場合など、抜歯を行ったほうが安定した仕上がりになるケースも多く存在します。すべての抜歯矯正が悪いわけではなく、適切な診断のもとで行われた抜歯矯正は、長期的に見てメリットが大きい治療法でもあります。
▼矯正治療で後悔しないために
矯正治療は長い時間とたくさんのお金がかかるものなので、後悔しないための準備がとても重要となります。
◎抜歯の要否を丁寧に診断してくれる歯科医院を選ぶ
矯正治療で後悔しないために最も重要なのは、「なぜ抜歯が必要なのか」「なぜ抜歯をしなくてもよいのか」を、患者さまにわかりやすく説明してくれる歯科医院を選ぶことです。レントゲンや口腔内写真、歯型などの資料をもとに、顎の骨の大きさ、歯の傾き、噛み合わせの状態まで含めて総合的に診断しているかが重要なポイントになります。
◎抜歯・非抜歯のメリットとデメリットを比較して説明してもらう
信頼できる歯科医院では、「抜歯矯正」「非抜歯矯正」それぞれの利点だけでなく、注意点やリスクについても説明があります。たとえば、非抜歯で無理に歯を並べると、後戻りのリスクが高くなる場合があります。一方、抜歯矯正では治療期間が長くなることや、歯を動かす量が大きくなることもあります。こうした情報を理解したうえで治療を選択することが、納得のいく結果につながります。
◎仕上がりの見た目だけでなく、噛み合わせを重視しているか
矯正治療は「歯並びをきれいにする」ことが目的と思われがちですが、本来はしっかり噛める噛み合わせをつくることが重要です。見た目だけを優先すると、治療後に顎や筋肉に負担がかかることもあります。抜歯矯正かどうかにかかわらず、噛み合わせまで考えた治療計画を立てているかを確認しましょう。
◎複数の歯科医院で相談するのも一つの方法
矯正治療は長期間にわたる治療です。不安がある場合は、1つの歯科医院だけで決めず、複数の医院で相談を受けることも選択肢の一つです。説明の内容や考え方を比較することで、自分に合った治療方針が見えてくることがあります。
▼まとめ
「抜歯矯正はやめたほうがいい」という言葉だけを見ると、不安が大きくなるかもしれません。しかし、抜歯矯正が必ず後悔につながるわけではなく、適切な診断と治療計画のもとで行われれば、歯並びや噛み合わせを安定させる有効な方法になることもあります。大切なのは、抜歯をするかどうかではなく、「なぜその治療が必要なのか」を丁寧に説明してもらい、納得したうえで治療を選ぶことです。矯正治療で後悔しないためにも、信頼できる歯科医院で十分な相談を行い、ご自身やお子さまに合った治療方法を見つけていきましょう。