抜歯後の穴が埋まらない時の対処法|いつ塞がるのかの目安と注意すべき食事
抜歯後に鏡を見て、「穴がなかなか塞がらない」「このままで大丈夫?」と不安になる患者さまは少なくありません。とくに矯正治療をきっかけに抜歯を行った場合、歯が動く前に傷口がきちんと治るのか気になる方も多いでしょう。抜歯後の穴は、時間の経過とともに歯茎や骨が再生し、少しずつ小さくなっていくのが通常です。しかし、治り方には個人差があり、生活習慣や食事内容によって回復が遅れることもあります。
本コラムでは「抜歯後の穴はいつ塞がるのか」という目安をわかりやすく解説し、注意すべき食事や、なかなか埋まらないときの正しい対処法について歯科医師の立場から詳しくお伝えします。
▼抜歯後の穴はいつ塞がる?
抜歯後の穴が塞がるまでの期間は、「歯茎がふさがるまで」と「骨が回復するまで」で考えると理解しやすくなります。見た目の変化と体の中で起こっている治癒は、必ずしも同じスピードではありません。
抜歯直後〜1週間:血のかさぶたが土台になる時期
抜歯直後の穴には血液がたまり、やがて血の塊ができます。これを血餅(けっぺい)といい、傷を守りながら治癒を進める重要な役割を担います。この血餅が安定している間は、穴が大きく見えても心配はいりません。無理に触ったり、強くうがいをしたりすると血餅が取れてしまうため注意が必要です。
1〜3週間:歯茎が盛り上がってくる
抜歯後1週間ほど経つと、歯茎の細胞が増え、穴の表面が少しずつ縮んできます。2〜3週間で歯茎が覆いかぶさるように再生し、見た目上は「ほぼ塞がった」と感じる方が多い時期です。ただし、内部ではまだ完全には治っていません。
1〜3か月:骨がゆっくり回復する
歯があった部分の骨では、新しい骨を作る細胞(骨芽細胞:新しい骨を作る細胞)と、骨を壊して入れ替える細胞(破骨細胞:骨を壊す働きをする細胞)がバランスよく働き、再生が進みます。骨がある程度しっかりするまでには、一般的に1〜3か月ほどかかります。
半年程度:ほぼ安定した状態に
個人差はありますが、抜歯後半年ほどで骨の状態も落ち着き、噛む力に耐えられる状態になります。矯正治療やインプラント治療の計画では、この骨の回復時期を考慮することが重要です。
▼抜歯後に注意すべき食事
抜歯後の食事は、治癒を早めるうえで非常に大切です。刺激の強い食事や噛み方によっては、治りが遅れる原因になります。
抜歯当日〜数日:やわらかく刺激の少ない食事を
抜歯直後は、血餅を守ることが最優先です。おかゆ、スープ、ヨーグルト、豆腐など、噛まずに食べられるものを選びましょう。熱すぎる食事は出血を助長することがあるため、少し冷ましてから口にするのがポイントです。
◎避けたい食べ物・飲み物
・硬いせんべいやナッツ類
・唐辛子など香辛料の強い料理
・アルコール類
・ストローを使った飲み物
これらは血餅が取れたり、歯茎に炎症が起きたりする原因になります。
回復期:栄養バランスを意識する
歯茎や骨の回復期は、たんぱく質、ビタミンC、カルシウムなどの栄養素が欠かせません。魚、卵、野菜、乳製品などをバランスよく取り入れることで、治癒を内側から支えることができます。
▼抜歯後の穴が埋まらないときの対処法
「抜歯してから時間が経っているのに、穴がなかなか小さくならない」「歯茎がふさがる気配がない」と感じる場合、治癒の過程で何らかの妨げが起きている可能性があります。抜歯後の回復には個人差がありますが、一定の期間を過ぎても改善が見られない場合には、原因を正しく把握することが大切です。
◎治癒が遅れる主な原因
抜歯後の治癒が順調に進まない背景には、いくつかの要因が考えられます。代表的なのが、傷口を保護する役割を持つ血餅が、うがいや食事、無意識に触る動作などによって早期に失われてしまうケースです。血餅は歯茎や骨が再生するための“土台”となるため、これが取れてしまうと治癒は大きく遅れます。
また、喫煙習慣がある方は血流が低下しやすく、歯茎や骨に必要な酸素や栄養が届きにくくなるため、回復が遅れがちです。さらに、抜歯した側で強く噛む癖がある場合や、全身の体調不良、持病の影響によっても治癒力が低下することがあります。
とくに注意が必要なのが、血餅が失われて骨が露出した状態で、これをドライソケットと呼びます。ズキズキとした強い痛みや口臭を伴うことが多く、自然に治ることは少ないため、早めの対応が重要です。
◎痛みや違和感が続く場合は歯科医院へ
抜歯後、軽い違和感が数日続くこと自体は珍しくありませんが、2週間以上経過しても痛みが強い、あるいは日に日に悪化するような場合は注意が必要です。自己判断で様子を見続けると、炎症が長引き、治癒までに余計な時間がかかることがあります。歯科医院では、患部の状態を確認したうえで洗浄や消毒、必要に応じたお薬の処方などを行い、回復を適切にサポートします。
◎矯正治療中・予定のある方の注意点
矯正治療では、歯を正しい位置へ動かすために、抜歯したスペースを計画的に利用します。そのため、抜歯後の歯茎や骨の治り具合は、治療の進行に大きく関わります。「抜歯 いつ塞がるのか」を自己判断で考えるのではなく、経過を担当医と共有しながら進めることが重要です。歯茎や骨の状態を確認しつつ治療を進めることで、無理のない矯正と安定した治療結果につながります。
▼まとめ
抜歯後の穴は、血餅の形成から歯茎、骨の再生へと段階的に治癒が進みます。見た目上は2〜3週間で塞がったように感じても、内部の骨が安定するまでには数か月を要します。そのため、抜歯後は刺激の少ない食事を心がけ、血餅を守る生活習慣が重要です。もし「抜歯後の穴が埋まらない」「痛みが長引く」といった不安がある場合は、早めに歯科医院へ相談しましょう。適切なケアと経過観察により、歯茎と骨は本来の回復力を発揮します。矯正治療を安心して進めるためにも、抜歯後の経過を正しく理解することが大切です。